月の裏

怪談や都市伝説などのいわゆる「怖い話」を紹介していくブログ

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「猿夢」後の物語---「恐怖のナポリタン」の夢解釈(後編)

「恐怖のナポリタン」とは、一つの夢的な物語---無意識の世界からのメッセージであり、そこに表れるレストランとは無意識の中の人格的な機能を持つまとまり---あなたに存在し得た人格や能力、可能性といったもの---が入っている領域を表す、というところまでを前々回前回と書いてきた。今回はその続きである。

さて、無意識とは実に広大な領域であり、それこそ最も原始的なレベルでは我々がは虫類やそれ以前の生物であったときの神経系の活動要素までもが含まれているとも言われている。だからこそ、よく森や海が無意識世界の象徴として使用されるわけだが、そんな中でも「レストラン」のような人工物の中に集まってくるものは無意識の中でもかなり人間的な機能部分になるわけだ。そして、実際、かつてあなたが幼かった頃には、この人気メニューを擁するレストランにはたくさんの人間(おそらく多くは子供たち)が集まってきていたはずだ。そう、今はいなくなってしまったその子供たちこそ、あなたの諦めてしまった夢や、実現しなかった人生を生きるはずの人格であり、あなたが殺してしまった才能や可能性を表していたのだ。

そう考えると、これはある意味では以前に紹介した「猿夢」の続きの物語であるということが分かる。「猿夢」は、あなたの中に生きる他のアナタたちがまさに殺されつつある、という危機的なメッセージを伝えるものであったが、残念ながらあなたはその悲鳴に全く耳を貸さず、目を瞑って人生を過ごしてきてしまった。そしてついには誰もいなくなった。それが今のこのレストランの状況なのである。いや、厳しいことを言えば状況はより危機的ですらある。レストランの中どころか、あなたの無意識の森を夜になるまで彷徨い歩いてさえなお、そこには何の人影も・・・夜の闇に潜んでいるはずの怪物たちですら!見つからないのである。あなたは現実の人生の中でほとんど死人同様に生き、もはや夢を見ることさえなくなって久しいのである。

生きながらにしてここまで死んだような状態になってしまうということは、この夢は基本的には中年の夢であろう。もしこれを読んでいるあなたがまだ若いのであるなら、むしろ「猿夢」を見るはずだからだ。だが、あなたがまだ若いというのにこの物語に惹き付けられているのであれば注意はしておいた方が良いだろう。あなたは強靱な精神を持ち、賢い。だからあなたの無意識は「猿夢」を飛ばして、このままだと将来、待ち受ける悲惨な姿をより直接的に警告しようとしている、ということかもしれないのだから。

さて、人影もない森の中の人のいないレストラン。だが、まだ全てが終わってしまったわけではない。そう、まだたった一人だけあなたと一緒にこのレストランにいる人物が話には登場している。レストランの店長だ。この物語の中で彼についての描写は一切ないので、彼がどんな人物かはよく分からない。それどころかいつ表れていつ消えていったのかさえ漠として知れない。彼の印象はまるで影のようだが、実際にそれこそがまさに彼の正体で、この店長とはあなたの影なのである。そう、いわゆる「シャドー」というものだ。あなたの内の子供たちは全て消えてしまったが、あなたの影だけは残ったのである。

「シャドー」とは、生きられなかった「あなた」のことである。ある程度の年月を生きた人なら誰しも、挫折した希望や抑圧した欲望、活躍の機会を得なかった性格の一面や閉じこめてきた人格などを心の中に持つことだろう。そうした、本来はあなたの中に存在していたはずだが、表に出ないままに心の奥深く置き去りにされてきたものたち、それがシャドーである。シャドーが何か、ということをはっきりと述べることはなかなか難しく、それゆえ「影」というシンボリックな表現によってそれは定義されているのであるが、この物語においてはシャドーはあなたの人生を影から見つめてきた、普段は表に出ないもう一人のあなた、というような位置付けにあるように思われる。

一般的にシャドーが劇的な(しかも主に悲劇的な)役割を果たす局面としては、いわゆる「魔が差す」場合、つまり表面的には人生がうまくいっているように「見える」ときに、その「うまくいっている」人生を前に進めるために犠牲にしてきたものたちが転落を唆すような局面が多いが、ここで表れるシャドーは弱々しく、もはやそうした力すら持っていないように思われる。この話の主人公はおそらく、何かのために何かを犠牲にすることさえなく、生きる屍として、自分の中の何物をも内省することなく過ごしてきたのではないだろうか。

そのシャドー---ここではあなたの無意識の代弁者でもある---が必死になって伝えるメッセージ、それが変にしょっぱいナポリタンなのである。ナポリタンとは、様々な具材を混ぜ合わせて調理するもので、それが滅茶苦茶なことになっているというのはつまり、あなたがバランスを崩した人生を送っているということに対する警告なのだ。差し障りのない解釈をすればそんなところになるのではないだろうか。



だが実は、この「変にしょっぱいナポリタン」について、私には初読時からどうしても消せないある別の印象がある。この話を初めて読んだとき、私が真っ先に思い浮かべたのは「ウミガメのスープ」の話である。「味がおかしい」ということに込められた重大な意味、一見意味不明な筋書き、そして物語全体に漂う不穏な雰囲気・・・。

ナポリタンから真っ先に連想されるビジュアルは血の色である赤だし、欠かすことの出来ない具材のベーコンは何かしらの加工を行った肉を示唆する。麺は引き出された臓物、あるいは屍肉に湧く蛆を思い起こさせ、異常な塩味は無理矢理に隠そうとした「何か」の味を意味する・・・。

ここまで書けば、私が初読時に真っ先にイメージしたものが「ウミガメのスープ」でもテーマとなっていた人肉食の禁忌であることは書くまでもないだろうが、ともかく、私はその印象を消すことができないのだ。
そして引き起こされる頭痛。不快な記憶に記憶に触れそうになったときの反応・・・。

「人肉食」というのは、必ずしも物理的に誰かを殺し、その死体を食べた、ということを意味するわけではない。誰かを肉体的、あるいは精神的、または社会的に葬り去り、それによって自分の利益を実現したとしたら、それはその人を殺し、その肉を喰らうのと同じことではないだろうか。その味は到底、忘れられるものではあるまい。

真実はこうだ。「私」は誰かを陥れた。子供時代のことだ。対象は死んだか再起不能になった。そのため、私の悪事は永遠に露呈することはないだろう。私はかの者の人生を奪い去ったのだ。それもただの一時の私利のために。その代償は高くついた。誰も私を罰し得ないのであれば、私が私を罰しないといけない。誰かの人生を奪うという重荷は子供が背負いきれるものではない。私はその記憶を失くし、その代わりに自分の人生を差し出した。かの者が残りの人生を「死人」として生きるのであれば、私も残りの人生を屍として生きなくてはならない・・・。

だが、私は今や大人になった。もう良いだろう。罪を償うには他の生き方もあり得るということを十分に知っているのだ。

作り直されたもう一皿のナポリタン。それはやり直しを意味するのだ。そして、それに対して支払いは要らない。もはや自分を傷つける必要はない、ということなのだ。罪を胸に刻み、償いながら生きていくと言うこと。意識のレベルでは非常に辛い生き方になることは間違いない。だが、無意識は告げる。それに立ち向かえる時期が来た、と。
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  1. 2006/08/13(日) 02:40:52|
  2. 出典あり|
  3. トラックバック:0|
  4. コメント:3
<<ヤル気ナポリタン | ホーム | 「怪談新耳袋」と黒川芽以>>

コメント

はじめまして。

まず、「あなたが物語を思い描けば、それが真相だ」
という言葉(表現は違ったかもしれません)について、
賛成します。

僕の解釈では、これは単なる「注文の多いレストラン」の
オマージュ、あるいはサイドストーリーです。

根拠としては、まず冒頭部分の類似点。注文の~には、
「ぜんたい、ここらの山は怪しからんね。
鳥も獣も一疋もいやがらん。」とあります。
ナポリタンにおいて、登場人物が極端に少ないことに
重なります。

また、ナポリタンの解釈としては、
幽次郎さんと同じように「人肉食」であったと考えます。
これが「注文の~」の世界であるなら、辻褄が合う訳です。
つまり、店長(山猫でしょうか)は、食材用ではなく
客用の出入り口から入ってきた主人公に対し、
最初に間違えて「山猫用」のナポリタンを
出してしまったのです。
  1. 2006/09/30(土) 23:22:54 |
  2. URL |
  3. ダイチ #cmzlVn4g
  4. [ 編集]
それです!
素晴らしい!それですよ、それ!

やけにしょっぱい味とか店員の慌てよう、そこはかとなく漂う人肉食のイメージ・・・全て完璧に説明できますね!

あ~・・・なんで「注文の多い料理店」が想起されたのにそこに考えが及ばなかったのだろう・・・。

ダイチさんの解答こそがナポリタンの「正解」であると勝手に認定させていただきます!
  1. 2006/10/02(月) 10:28:33 |
  2. URL |
  3. 幽二郎 #-
  4. [ 編集]
18です若いです。
この話、以前に見たときはなんだこれ?ぐらいだったんですが今回は興味が沸いて調べてたらここを見つけました。

この話に強く惹き付けられた人で若い人...
精神力を誉められて嬉しいけど、将来の警告ってのがめちゃくちゃ怖いです。

なんなんでしょう、1週間後に受験で自分の感情を押し殺していることとか関係あるんですかね。
まあホントに押し殺してるなら勉強しろよって話ですよね。



面白かったです。受験終わったら読み返して色々考えてみたいと思います。
  1. 2011/02/17(木) 17:42:16 |
  2. URL |
  3. トミー #-
  4. [ 編集]

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